兄の決意
困惑
憂鬱
驚愕
偽りの安らぎ
疑問
真相
後悔
そして・・・
たとえ僕がいなくなっても世界はいつもと変わらないのだろう。
たとえ僕が死んでも世界は変わらず動き続けるのだろう。
もはや何が真実で何が間違っているのかなんてわからない。ただ目で見て、耳で聞こえたものが真実であり現実なのだろう。
…僕が妹達と血のつながってない存在だというのも…紛れもない現実なんだ。
この事実を知った時、僕は…まるで…自分のいる世界全てが嘘のように思えてしまった。
「僕は…僕は…」
…翌日僕は…家を…出ていく…決意をした。
「家を出る。」
「ど、どうしてですか!?」
翌日の朝、僕は案の定、妹達の質問責めにあった。
「突然でごめん…でも、もう決めたんだ。」
「納得できないわ!」
「せめて理由を話してもらえませんか…?」
妹達が質問するなか僕はその様子をまるで人事のように感じていた。
(彼女達が必要としているのは…)
「お兄様?」
「お兄ちゃん?」
ドクン
(胸が…苦しい…)
次々にほかの妹達が僕を…いや、「かつて」の僕を呼ぶ。
「…お兄ちゃま…」
(どうして…)
「…僕は………じゃ…ない。」
…あれから数週間が過ぎた。
結局僕は一人暮らしを始め妹達とはあまり会っていない。
…みんなは結局最後まで納得してはくれなかった。
…泣き出した妹までいたくらいだ。
「最低だな…僕は…」
そうつぶやくと僕はすでに誰もいなくなった教室を後にした。
外は雨が降っていた。小雨ではあったが地面の濡れ具合からみてだいぶ前から降っていたようだ。
これぐらいなら走ればそんなに濡れずにすみそうだ…そう思うと僕は雨の中を走りだした。
雨が少しづつ弱くなってきた。
この様子だとあと5、6分もすれば止むかもしれない。
「…急いで出てくる必要、なかったかもな…」
僕は苦笑混じりにそうつぶやいた。だけどここまで来たら走って帰った方が早い。
そう思い直し僕は残りの道のりを急いだ。
「あの角を曲がれば…」
もう家が見えるはず…そう思い勢いよく角を曲がった僕の目に想像してないものが飛び込んできた。
「か……花穂!?」
「お兄ちゃま…」
…雨が降り続く中、花穂がずぶ濡れでそこに立っていた。
…花穂が傘も指さずにずぶ濡れで立っていた。この雨の降り具合からして5分やそこらでこれほどまでに濡れるはずがない。
つまり…
(ずっと前から…待って…いたのか!?)
「…と、とにかく家の中に、早く体を拭かなきゃ…」
僕は花穂を促し、家の中に入った。
外はまだ雨が降っている。
「すぐやむと思ったんだけどな…」
僕はそうつぶやき花穂の方を向いた。花穂はすでに着替えて僕の作ったホットミルクを飲んでいた。
「落ち着いた?」
「うん…ありがとう、お兄ちゃま。」
「でも…なんであんな所で?」
僕は花穂に訪ねた。
「あの…花穂、お兄ちゃまに聞きたいことがあって来たの…」
花穂はそう言うと僕の方を見て言葉を続けた。
「どうして…家を出ちゃったの?」
わかってはいた。わかってはいたが答えられなかった。
(これしかなかったんだ…)
ドクン
「あ、あのね…花穂達、みんなお兄ちゃまのこと、待ってるの…だ、だから…」
「…駄目だ。」
静かに。だがはっきりと僕は言った。花穂が固まるのがわかった。
これしか…ないんだ…。
僕はわずかに苦しみだした胸を押さえながら…目を…閉じた。
ーだがー。次に花穂の口からでた言葉は意外なものだった。
「…花穂が本当の妹じゃないから?だから…花穂のこと…嫌いになっちゃったの?」
「…!」
そうか…やっぱりみんな知っていたんだな…
「…確かに花穂はほかの妹達と違ってお兄ちゃまの本当の妹じゃないけど…お兄ちゃまが嫌じゃなかったら…ずっと妹でいたかった…」
……?何だって?他の妹達と違う…?
花穂の告白を上の空のように聞いていた僕は何かおかしいことに気づいた。
「でも…でも…花穂はドジだけど…それでもお兄ちゃまと…一緒にいたいの…!」
…何ということだ!ここにきて僕は全ての事態を理解した。
つまり、僕も花穂も兄妹の中で血の繋がっていない存在だったのだ!
…いや。僕はもっと大切な事を見忘れていた。
僕は次の瞬間、花穂を抱きしめていた。
「お、お兄ちゃま…!?」
…花穂は僕よりもずっと辛い現実を見て、それでも前向きに進んでいたんだ…。それなのに僕は…僕は…
「…僕は…ただ逃げていただけだった…!」
…涙が流れていた。悔しかった。自分の弱さを呪いたかった。
花穂はそんな僕を…まるで聖母のように…優しくつつんでくれた。
「花穂…」
…たとえ僕がいなくなっても世界はいつもと変わらないのだろう。
たとえ僕が死んでも世界は変わらず動き続けるのだろう。
…それでも僕は前に進んでいく。
前に進む勇気を教えてもらったから。
逃げない強さを教えてもらえたから。
─もう迷わない。
…僕の隣には花穂がいる。それだけのことが僕の全てでありこれが真実なのだから。
「お兄ちゃま!」
…もうすぐ夏が近づいてくる。
暑い日差しの下で…隣にいる天使は僕に最高の笑顔を見せてくれていた。
<コメント>
結城亮さんの長編SSです。これ以来うちのサイトや他のシスプリサイトに顔を見せなくなりました。
今も元気にしてらっしゃるのでしょうか。最後まで男性だったのか女性だったのか分からない方でした。